こちら葛飾区水元公園前通信623

 村上春樹の「東京綺譚集」(新潮社)を読んだ。けっこうおもしろかったです。でも、ちょっと不思議な話を、日常生活の中ですっぽりと落ちこんでしまうものとして、すごく意識的に書いている。そこのところが、なんとうのかなあ。何かをなくしてしまうことで、自分自身を取り戻す。けれども、それは無傷ではいられず、時にはおおきな代償を払うことになる、という。ありふれた幽霊譚のようなサーファーの話なんかは、それでも主人公の素直で強いキャラクターによって、すごくポジティブに受けとめられるような、いい話になっているって思った。「品川猿」は話の作り込み方に無理があるなあって思ったりもしたけれども。それにしても、どうして村上は東京を選んだのだろうか。

 川上弘美の「龍宮」(文春文庫)も読んだ。最初の「北斎」における、昔タコだったおやじの話には、なかなか呆然と捨てられる気がして、無理に不思議なものを作りこんでいないっていうのが、すごく好きだった。あと、ホームヘルパーを主人公とした「狐塚」の五十代女性の、それでも九十代男性にとっては若いという、そういう感覚を主体的に落としこむ話なんか、好きです。

 エリック・ガルシアの「鉤爪の報酬」(ヴィレッジブックス)は、恐竜ハードボイルドの3作目。無理がある設定を強引に進める気持ち良さっていうのはあるな。今回はマイアミを舞台にした、ヴェロキラプトルとハドロサウルスのギャングの抗争に巻き込まれるっていう話なんだけれど、1作目のミステリーとしての感触、2作目のアクションシーンの楽しみというのとはまたちがって、今回は主人公はどんどんどつぼにはまり、いろいろなものを失っていくという、なかなかつらい話。もちろん、メキシコ湾からハリケーンもやってくるのだ。つらい話だけれど、一気に読めてしまう、どつぼはまりのスピード感というのはあるな。2作目よりも好きかも。

 アーナス・ボーデルセンの「蒼い迷宮」(角川文庫)なんていうのも、読んでしまった。デンマークのSFということで、ずっと積ん読になっていた本。発行は88年だけれども、原著は71年。30年以上も前だな。話はというと、1975年、癌に罹った主人公が、冷凍睡眠を勧められて、で眠りにつく。1995年に一度目覚めて、病気は治っているのだけれど、何か不満があって、もう一度眠る。で、2022年にもう一度目覚めるという、近未来小説っていうことになるのかな。でも、謎は解決されないし、だからどうしたんだよっていう。未来の病院っていう迷宮にしても、もっと書き方はあるんだろうな。アマゾンでは5円で買えるけど、おすすめではない。まあ、デンマークのSFがめずらしいっていうか、それだけかも。

 「仮面ライダー響鬼」には前回と次回、エンディングテーマを歌う布施明が出演している。それで、歌を聞かせてくれるのだけれど、その歌を聴いたうちの娘は、「この人、音痴だね」などと言ってくれた。そうかあ。