こちら葛飾区水元公園前通信891

 こんばんは。

 

 まずは業務連絡。

 トーキングヘッズの78号が発売されます。特集は、「ディレッタントの平成史」ということで、この30年を振り返ります。ぼくも、ちょっと書いています。

 今回もまた、ご購読のほど、よろしくお願いいたします。

 

 ということで、桜の季節も過ぎてしまいました。

花見は、Iくんの提案で、4月13日に水元公園でやりました。

まあ、満開は過ぎていたのですがね。お酒が飲めればいいや、くらいで。

 桜の写真はフェイスブックにアップしてあります。

 

 3月は、ずっと、「向井豊昭小説線 骨踊り」(幻戯書房)を読んでいました。だいたい、単行本3冊分ある厚い本です。長編が1本、それなりの長さの短編が5本、その他資料など。向井が影響を受けた、平岡篤頼クロード・シモン論なんかも。

 「骨踊り」は、本書の中心となる長編。東京で臨時採用の小学校教師が主人公。モデルは本人。学校という理不尽な場所に向かい、理不尽なめにあうたびに、骨が分離し、分身が現れる。これを横糸でつなぐのが、主人公の出生のこと、祖先のこと。主人公の母親は私生児として主人公を産むが、幼いときに結核で亡くなる。そのため、祖父母が育てることになる。とりわけ、この祖父のことが語られる。祖父は詩人でもあり、石川啄木とも親交があったという。さらに、話は祖父の出生へと遡っていく。タイトルよろしく、現実を脱臼させながら話は迷走していく。

 収録されている短編は、この「骨踊り」を補完する形で、祖父の記憶、祖先の由来が、例えば、練馬や石神井の豊島氏のことや、会津藩士が青森へ送られたことなども語られる。

 青森も、かつて向井が教員として赴任した北海道も、植民地としてそこにあることも示される。

 正直に言うと、よくわからないんです。それでも、シモンの小説が圧倒的な言葉の圧力で迫ってくるように、向井が、時間と空間を自在にかきまぜながら攻めてくる、ということは感じます。

 

 川上亜紀の「チャイナ・カシミア」(七月堂)は、とても薄い本ですが、うまく編みこまれた作品とでもいうのでしょうか。

 表題作は、何が現実で何が幻想なのか、わからない、迷宮のような短編です。主人公は灰色猫と暮らし、内モンゴルのカシミア山羊を想像する。中国人がなぜそこにいるのか、オカアサンがそもそも人間なのかどうか。山尾悠子の短編のような感触があります。

 

 いただきものなのですが、冬月いろりの「最果て図書館」(電撃文庫)も読みました。

 なかなかひねくれたファンタジーでした。主人公は図書館の館長。過去の記憶はなく、いつから図書館にいるのかわからない。世界は魔王に支配されようとしているが、それを勇者が倒しに行こうとしている。この世界では定期的に魔王が現れ、勇者がそれを倒す、ということになっている。館長は、勇者ではなく、それを見守る側。

 勇者や魔王が定期的に表れる世界というのはともかく、勇者は強くなるためにモンスターを一方的に倒し、宿泊先ではタンスなどで探し物をする。ドラクエじゃないんだから。

 

 リービ英雄の「バイリンガル・エキサイトメント」(岩波書店)は、講演、対談、エッセイをまとめた本。米国出身なのに日本にきて日本語で著述する。万葉集の研究者であり翻訳もしているリービにとって、ぼくたちにはわからなくなってしまった古語の美しさというものがある。バイリンガルであることによる世界。それはたしかに、日本語しかわからないぼくにしてみれば、エキサイティングだろうなあ、と思う。もはやぼくにとって、古文すらも外国語に等しいからな。

 ただ、そういうこととは別に、日本語を使う喜びっていうのはあるな。漢字があって、ひらがなとカタカナがあって、アルファベットだって使える。使いでのある言語なのかもしれない。

 

 で、そのリービとも対談している、多和田葉子の「献灯使」(講談社)。東日本大震災原発事故がきっかけで書かれた作品だけど、舞台は未来。日本は封鎖され、老人は死ねずに長生きする一方、子どもは虚弱なままという世界。世界から見たら、こんなのが日本なのかなあ。何となく、もうひとひねり欲しくて、乗れなかったです。いろいろと細かい技術も披露してくれているんですけどね。

 

 図子慧の「愛は、こぼれるqの音色」(アトリエサード)は、ポストサイバーパンクという感じで、好きです。表題作は短編なのだけど、オーガズムを記録し、それをポルノとして販売しているという話。でも、なかなか女性のオーガズムを採取できない。

 ヒロインの造詣とか、主人公の性格とか、けっこう好きです。

 

 とまあ、そんな感じで本を読んでいました。

 

 今年も陣馬―高尾の縦走をしてきました。今月のトレッキングは、ちょっと長めで。でもその話は次回。えーと、連休中に高尾山に行くのであれば、ぜひ、一丁平を経由して小仏城山まで足を延ばすことをおすすめします。

 では、おやすみなさい。

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