こちら葛飾区水元公園前通信907

 こんにちは。

 

 まず、業務連絡。

 「トーキングヘッズ叢書 No.83 音楽、なんてストレンジな!」が月末には書店に並びます。今回は、ミニマルミュージックについて書きました。いや、プログレじゃないのかよ、とか言われそうですね。まあ、ほかにも盛りだくさんなので、今回もぜひともお買い求めいただけますよう、よろしくお願いいたします。

 

 そんなわけで、前回告知した釣りですが、行ってきました。釣果はいまいちだったのですが、すべて3枚におろしててんぷらでいただきました。メゴチやカサゴなども、ベラもみんなてんぷらです。まあ、おいしく食べました。いや、ナスのてんぷらがおいしかった。

 

 トレッキングですが、暑くなってくるということで、ゆる山歩きをしています。それも、ひさしぶりに奥多摩方面へ。雨でなかなか行けなかったのですが、6月27日には、青梅丘陵を歩きました。青梅駅から軍畑駅まで、だらだらとした山道。ところどころ急な坂もありますが、表丹沢に比べたら軽いものです。最高地点でも500mない雷電山。

 でも、今回のメインはここではなく、軍畑から一駅先にある沢井、というか沢の井。良く冷えたお酒を飲むことを楽しみに歩いていました。大吟醸純米吟醸もおいしかったです。

 

 7月11日には、奥多摩むかし道を歩きました。東京新聞の土曜日の最終面に、「東京どんぶらこ」という企画があり、毎週東京のどこかの散歩コースを紹介しています。そこで見たのがこのコース。散歩というコンセプトです。旧青梅街道といえばいいのでしょうか。

 そんなコースですから、青梅丘陵以上にゆるいコースで、山道はごく一部、全10kmのうち最後の3kmかな。でもまあ、そこだけがちょっときつい登りになっているくらいです。

 ゴールは奥多摩湖。帰りはバスで駅にもどり、もえぎの湯で疲れをとりました。あとはビールですね。

 

 釣りやトレッキングについては、くわしくはブログかフェイスブックで見ていただければと思います。

 

 最近、おもしろかった本といえば、三島芳治の「児玉まりあ文学集成」(リイド社)です。

 ヒロインの児玉まりあは高校の文学部の部長。といっても部員はいない。部員候補の笛田くんが語りてなんだけど、笛田くんはなかなか部員にしてもらえない。何が文学かって、児玉まりあのさも文学ってこういうもんだ、的な話がなかなか核心なのではないか、というのが面白さの1つ。でも、もっとトリッキーなのは、笛田くんの視覚。ものの構造がよく把握できていない。だから、児玉まりあは笛田くんには特別美しく見える。それもまた、文学。

 手塚治虫文化賞だけのことはあります。

 

 倉数茂の「あがない」(河出書房新社)。主人公は解体屋で働く中年男性。高齢化する労働現場の描写と、クスリにはまっていた過去、そこから立ち直り、人を救おうという想い。ストレートにていねいに書かれているのだけど。何かもうひとつ深く入ってこなくって。「名もなき王国」は面白かったのにな。

 同じ倉数の「百の剣」も、群像に掲載されていたので図書館で借りて読んだ。旧約聖書外典の「ユディット書」を横軸に、そこに興味を持つ真行寺真希という女性のブログを縦軸に、ブログに興味を持った主人公の探求。ユディットは女性だけの戦力で敵を撃退した、という伝説。さまざまな形で戦う女性がクローズアップされる。後半、「男性の方が差別されている」といって女性専用車両に乗り込む男性の団体が登場し、真希が戦いを挑む。トランスジェンダーによって記述された、女性の生きにくさと戦いの話、というシンプルだけれど、描き方はちょっと複雑。なんだけど、やっぱり物足りなくって。そんなシンプルな話じゃないよ、というのが、例えば松田青子の小説にはあるんだけど。

 

 彩瀬まるの「まだ暖かい鍋を抱いておやすみ」(祥伝社)を読んだのは、「あがない」の帯にメッセージをよせていたので、ちょっと興味を持ったので。タイトル通りの小説、といえばいいのかな。料理がおいしそうに描かれていていいなあ、とか。

 収録された作品の最後にあるのが「大きな鍋の歌」という短編。余命いくばくもない友人に、料理を届け続ける話。ふたりとも料理人だけど、主人公は魚をさばくのが得意。友人に言わせると、魚を殺すのにためらいがないから。そこには、おいしいものを食べるときに、生命をいただくという残酷さがつねにある、ということが垣間見られる。そんなことも含めて、料理は人を元気づけるし、記憶にも残る。余命いくばくもない友人、その死後、主人公を撮影した写真がたくさん見つかる。料理には想いはこめられるものなんだな、と思う。

 

 加藤典洋の「村上春樹の世界」(講談社)。加藤は村上をずっとフォローしてきた。同世代であり、青年期を政治の季節に生きてきた、という共通項がある。そこからの読みというのは、なるほどなあ、と思う。思うんだけど、そこに固定されすぎているんじゃないか、過剰な想いなんじゃないか、という気がしないでもないです。ただ、今の若い世代はもう、村上春樹を読んでいないっていうのは、なるほどなあって思った。若いつもりでいるおじさんのための本なのかもしれないな。

 

 ヴィクター・ラヴァルの「ブラック・トムのバラード」(東宣出版)。1925年のニューヨークを舞台にした、クトゥルー物の中編。ラブクラフトレイシストだった、という批判も含めて、黒人を主人公の一人に据えてリメイクした、といえばいいのかな。「Black Lives Matter」という時代にあって、というか本書の解説ですでに言及されているけれど、そこに置かれる作品でもある。「はじめて読む世界のおはなし」シリーズの1冊なんだけど、まあ、これがはじめてでもいいのかもしれないな。

 

 松苗あけみ著「松苗あけみの少女まんが道」(ぶんか社)、表紙はいまだに「純情クレイジーフルーツ」かよ、とかつっこみたくなるけど、まあ、そうなんだろうな。デビュー前から純クレでの成功までを書いたコミックエッセイ。純クレはリアルタイムで読んでいたからなあ。というのは、ぼくの友人にはけっこういるはず。

 一条ゆかりのアシスタントをやり、リリカでデビューし、内田善美の美しい絵には言葉もなく、「純クレ」は最初ダメ出しだったのに、と。でも、松苗のこのときの成功って、女子高に通う女子高生の素直な欲望を忠実に向かい合ったことなのかもしれないな、と。別に、誰もが同じわけじゃないけど、人それぞれ、という4人を描き分けたし。誰もが既成のラブコメの主人公になれるわけじゃないけれど、でももっとユニークな物語の主人公にはなれる、くらいの線で展開していったことかな。

 その後も松苗はしぶとく生きているし、内田善美は引退しちゃって、「星の時計のLiddel」は再刊されないし(I君、いいかげん返却してください)、とまあ、そんなこんなです。

 

 稲原美苗、川崎唯史、中沢瞳、宮原優編「フェミニスト現象学入門」(ナカニシヤ出版)も読んだんだっけ。

 フェミニズム関係では、ちょっとかわった本です。というのも、理論よりも経験が優先して書かれているから。経験から理論を再構築する、というのは、必要なことかもしれません。そこには、多様な経験があって、男女二元論には回収されないものがたくさんあるからです。女性としての、というだけではなく、妊婦として、同性愛者として、FTMMTFとして、外国人として、障害者として、などなど。

 ということで思い出したのだけど、Ku Too運動の発端となった石川優美が、MTFの女性が女子トイレを使っていいかどうか問題でフェミニストから叩かれていたこと。これについては、基本、使っていいと思うんだけど、まあ、そうもいかない人には誰でもトイレがあるし、と、そうとも思うんだけど。

 石川を批判するフェミニストは、MTFの「女性」は排除する、という立場。ちんこのついている女性が入ってきたら困る、と。女子トイレは基本個室だし、とかいう話ではないらしい。

 で、そこで排除するって、だんだんレイシストのロジックと似てくる、っていうこと。「女装して入ってくる男性がいたら怖いよね」と。でも、そんなの、MTFを排除したところで、女装までして女子トイレに入る奴はいるかもしれないし、本質的な話じゃないと思うんだけどな。だから、そういったことに対し、きちんとMTFという体験を語っておくことが必要なんじゃないか。ということなんです。

 

 ということでは、最近、自殺希望のALSの女性が、ネットで知り合った医師によって安楽死させられた、という事件がありました。

 単純に、いい悪いって言えない事件で、殺した医師についていろいろ言われたりもしているのですが、そういうことはさておいても。ALSであっても、安心して生きられるようにすべきだと思うのですが、同時にALSの身体で生きなきゃいけないものなのだろうか、というのもあると思うのです。結局、行きつくところ、人というのは、困難な状況であったとしても、安心して生きることができれば、死を選ぶ必要がないし、そうした方向で社会が変化してきたと思っているのです。だから、ALSの人が死を選んでしまうのは、社会の側の敗北なんじゃないか、と思うのです。

 

 そう考えると、MTFの人が、同じようにトイレを使えない(女子に限らない)ということもまた、社会の側の敗北だと思うのです。そして、そこを切り捨てて排除してしまう、という一部のフェミニストの姿勢というのは、本当に、50年前に、黒人女性を切り捨てて、中流白人女性のためのフェミニズムを追求し、批判された、第二波フェミニズムから何も進化していないと思うのです。

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