こちら葛飾区水元公園前通信762

tenshinokuma2010-04-27

 村上春樹の「1Q84」の<BOOK3>は読み終わりました。先が気になるし、それなりに面白いので読んでしまいました。でも、不満もあります。ただし、ネタバラシにつながるので、これはしばらく封印。

 それから、トーキングヘッズ叢書のNo.42も出ました。こちらもよろしく。特集は「ドールホリック」、といっても何だかわかんないですね。機械の花嫁とか、そういったレベルで。

 それはそうと、鳩山政権の支持率がどんどん下がっています。いろいろな見方があると思うけど、ぼくは基本的に首相の言葉が足りないというのが原因じゃないかと思っている。
 例えば、子ども手当にしても、育児の社会化というメッセージがあるはずなのだけれども、それが単なるバラマキにされてしまっている。増税という議論も出てきているけれども、本質的には、景気が回復したら、という前提だ。普天間基地移設問題も、そもそも解決が困難だし、だからといってだらだらとやらないというポーズが必要なだけなのだと思う。
 まあ、鳩山以下、民主党の人たちはマスコミが言うことに惑わされすぎているのだと思うけど、安定多数の任期は4年間あるのだし、そこでうまく着地できればいいんじゃないかと思う。オバマ大統領だって、けっこうハードな政権運営をしているし、それはさして変わらない。
 今の鳩山政権のおかげで、日本がものすごい危機にあるようなイメージを持つ人もいるかもしれない。でも、4年前の郵政民営化選挙直後の方が、はるかに重大な危機だった。小泉−竹中政権が日本の社会をおかしい方向に持っていこうとしても、それが支持されてしまったのだから。その後、教育基本法の改悪など、弱者にしわ寄せがいく法案がどんどん成立していった。だから逆に、みんなが危機意識を持っているくらいなら、本質的にまだ大丈夫なのかもしれない。鳩山政権が小泉−竹中路線に対する批判として政権をとっているということを忘れてはいけないと思うし、それを実現してもらうことを主張すべきなのだ。

 普天間基地の問題について言えば、そもそも基地が必要なのかどうか、誰にとって必要なのか、そしてなぜ受け入れられないのか、という根本的な話がなされていない。そうした状況で、解決しようというのが無理なのだと思う。
 さらに言えば、危機はむしろ、5月末で決着しなかったあと、別の政権が誕生し、強引に決めてしまうということ。そんなことになるよりは、だらだらと引き延ばしている方が、よほどマシだ。

 それに、普天間の問題が米国にとって急ぐべき問題だとも思えない。今、米国の国内問題としては、中国の人民元切り上げ重要になっている。ドルに連動した人民元は不当に安くなっている。その結果、中国は貿易黒字をためこんでいるし、米国製品は中国で売れない。
 もっとも、中国もそのことは意識していて、このまま人民元が安いとインフレが懸念される。ただし、急激に切り上げると労働集約的な産業が壊滅してしまう。
 たぶん、中国は人民元切り上げのソフトランディングをしなきゃいけないということは理解している。問題はその方法がないということ。
 鳩山首相はこの問題を、オバマ大統領と話し合うべきだったと思う。人民元の切り上げは、円を相対的に安くし、輸出にプラスにはたらく。中国も購買力を向上させるので、日本製品を買ってもらえるようになる。鳩山首相アジア外交を重視するのであれば、まずはそこを抑えていくべきだったし、そこで米国と協調すべきだったと思う。そうすれば、普天間問題で多少失点があっても、大丈夫だろう。

 とまあ、そんなことを思うのだけれども、多分、問題はもっと深刻だし、そのことがなかなか見えないとも思う。
 先月から今月にかけて、本田一成著「最大の非正規雇用−主婦パート」(集英社新書)、堤美果著「ルポ 貧困大国アメリカII」、湯浅誠著「反貧困」を続けて読んだ。なかなか憂鬱な気分になる読書である。
 主婦パートがどのように誕生したか、そしてそれがパート並みの賃金のまま、基幹労働力化されている現実は、なかなかつらいものがある。とても語りつくせない問題だ。やっぱり、基幹労働力とするのであれば、それなりの賃金が支払われて当然だと思うし、というかそもそも主婦パートという安価で使いやすい労働力の存在そのものがどうなのか、とも思う。主婦パートが基幹労働力になれば、正社員は不要になってしまう。事実、そうなったし、それが派遣労働者となっているということだ。
 堤が書いているのは、アメリカという国では近年、どんどん人が中流から転落しているそうだ。病気によって大量の借金を抱えたり、大学の授業料のローンが返せなかったり。そんな中でなお、小さな政府を求める草の根運動があって、それが「ティー・パーティ」とよばれるグループ、共和党の保守層を支持している。国民皆保険に強く反対していた人たちだ。そういう人たちの映像を見ているけれど、アメリカの貧困というのは、こうした人たちによってつくられているということがわかる。それは、小泉−竹中を支持していた都市部の中流層の姿と重なってしまうのだけれども。
 日本もものすごく貧困だし、それは生活保護の補足率の異様な低さからも示されている。でも、まだアメリカよりましかもしれない、とも思う。ハーレムの平均寿命が40歳だと聞いて、それが先進国だとは思えない。もっとも、山谷や西成地区の状況は、先進国よりは低開発国のそれなのだという報告もあるのだけど。というのが「反貧困」。

 それにしても、思うのは、マスコミは見える財政赤字は問題にしているけれど、見えない負債については何も報道しないということ。
 30代の年収が10年だか20年前だかと比較して200万円も減少し、300万円台だという。バブルがはじめたあと、正規雇用とならないまま、30代になってしまった人たちだ。問題は、この人たちはどれほど年金を払っているのだろいということ。払っていたとして、いくらもらえるのだろうということも。確実に言えることは、この世代が高齢化したら、大量に生活保護の支給が必要になること。そのためには財源が必要だ。それが、見えない負債である。
 企業がグローバル化する中で、人件費までもがグローバル化した結果、正社員ではなくより安い派遣社員で労働力をまかなうしかなかったし、そうすることで企業は収益をあげ、株価を回復させてきたわけだけど、まさにその収益こそ、派遣社員に雇用リスクを外出ししてしまったことで得られたものなのだ。だったら、それは企業が支払うべきもので、法人税増税しなきゃ、とも思う。それか、累進課税を強化し、金持ちにもっと税金を払ってもらうしかない、とか。
 などと思うと、やはり最初に戻って、人民元の切り上げは、日本にとっても重要な問題だな、ということになる。そうしないと、日本人は貧困なままだ。

 というようなことを考えていても切りがないのですが。その一方で、乱立する保守系の新党というのは、それはそれで悲哀を感じさせます。
 ぼくは、谷垣という人は麻生よりはよほどましなんじゃないかとは思うのですが、自民党の総裁に最悪のタイミングでなってしまったと思います。加藤紘一の流れをくむ政治家としては、小泉−竹中路線回帰はできないと思うし、もう少し中道よりの政治家なのだと思うのだけれど、それじゃ民主党との違いが出せないという。というか、民主党の支持率低下は、ある部分では、掲げていた政策を実行できないということなので、逆に民主党以上に社会民主的な政策を打ち出せば、それはそれで支持を得られると思うし、それが55年体制の強固な再構築ということにもなるのだろうけれど、そんな後退した印象を与えるわけにもいかない、という。
 かくして、先が見えない自民党から、元々現代の政治のイシューについていけない高齢議員が離党して新党を立ち上げるというのは、選挙目当てということしかなく、それが悲哀を感じさせるということになる。河野太郎が言うように、老人がいなくなって、まともな若手が残った自民党が再生する、というのかもしれないけど。その思想は、みんなの党に近いんじゃないかな。みんなの党がいずれ、自民党を飲み込むのではないか、とぼくは予想している。新しい党名は、自由なみんなの党、略称自みん党、でいいかもしれない。
 国民新党もそうだけれども、たちあがれ日本といい新党改革といい、老人政党は消えゆく運命、だとは思う。社民党はしぶとく生き残るかもしれないけど。

 何はともあれ、政策ではなく政局でしか語られないところに、日本の政治の不幸がある。