麻生の失敗とシルバーニューディール

麻生首相の支持率が大きく低下している。
何がいけなかったのだろうか。

第一に、麻生が自身の政策を実行していないという点がある。
実は麻生が自民党総裁選で当選したとき、その政策は、言ってしまえば「バラマキ」だった。
それは、ある意味では、古い自民党の政策だった。そして、それは小泉改革において否定された政策だった。
問題は、小泉の政策が地方を疲弊させてしまったこと、所得の再分配が機能せず、格差が拡大してしまったということにある。その結果、地方票が民主党に流れ、参議院選挙での自民党の敗北となった。
したがって、麻生は地方に手厚い「バラマキ」を行なおうとしていたわけだ。

しかし、その「バラマキ」が、効果的な政策としてまとめられず、本当に定額減税→定額給付金という、ほんとうにただの「バラマキ」になってしまい、しかも給付の手段が迷走する一方、それが経済的効果がないとして支持されていない。
さらに問題をややこしくしているのは、「バラマキ」そのものが否定された政策であるとして、小泉を支持してきた与党政治家の一部から批判をあび、麻生が思うように実行できていないということになってしまっている。

バラマキ政策で当選したはずの麻生を、支持した議員がその政策を後退だとして支持しないため、麻生は政策を実行できず、迷走させてしまう。しかも、麻生のバラマキは、景気回復策として疑問が残る政策であるため、その印象はなおさら強い。

典型的なものが、道路財源の一般財源化への抵抗勢力に対する敗北である。一般財源化の8割が道路に使われるというのであれば、あまり意味がない。

第二に、麻生内閣そのものが、最初から期待されていなかったという点を忘れてはいけない。麻生というカンバンで総選挙を戦う、だれもがそう思っていたはずだ。その結果として、万が一、与党が総選挙で勝利したら、麻生が掲げた政策が支持されたものとして、政策を実行できたはずだ。しかし、解散を回避してしまった。そうであるとすれば、麻生は強引にでも、支持される政策を展開していく必要があった。

麻生はどうすれば良かったのだろうか。
まず、「バラマキ」を景気対策に効果的な政策としてまとめていく必要があった。
均一なバラマキではなく、雇用対策に対する徹底した支援をするべきだったのだ。とりわけ、介護労働者への支援は、高齢者が安心して暮らせる社会に向けた政策となるものだ。
財源については、気にする必要はなかった。赤字国債を発行してでも実行すべきだった。それは、小泉の政策の否定となる。だが、参議院選挙での結果は、小泉の政策の否定だったということを忘れてはいけない。小さな政府ではもたないということだ。
そして、こうした政策に舵を切っていくとき、アメリカもまたオバマ次期大統領が同じ方向に向かっているということがこれを正当化する。
国の借金が増えることはまちがいない。しかし、それは結果として、将来のインフレによって解決されるものだ。
雇用の問題についても、徹底した救済策を示すべきだったのだ。

道路財源の一般財源化は党内の反対があっても、強引に進めるべきだった。それは、地方の産業構造そのものを変えていくということが必要だからだ。むしろ、急速に高齢化が進む地方ではそれにふさわしいまちづくりを行なっていかなくてはならない。そのための財源として使っていくことができる。

こうした強引な「大きな政府」政策は逆行だろうか。だが、それを逆行だというときには、そうした意見を持つ議員を追い出せば良かったのだ。そうしたとき、小沢は政界再編・大連立を画策してくる。民主党の中にも小さな政府指向、小泉の政策に近い議員がいる。そうした議員を、小沢は切っていくはずだ。

改革は、「既得権益」を否定する一方、「小さな政府」ではなく「安心して暮らせる社会」であるべきなのだ。
結果として、麻生自身が自民党を割ってしまうことになるが、参議院選挙で支持された政策を与党として実行していくことで、与党のカンバンそのものは守られる。

さて、麻生の支持率が下がっただけではなく、与党内の造反が強くなっている。だが、では、政界再編になるのだろうか。まだ、そうはならない。なぜなら、明確な対立軸が示されていないからだ。
「小さい政府」か「大きい政府」か、ということが対立軸なのだが、それを自民党民主党も抱えている中で、総選挙を実施しても、どんな政策が支持されているのかわからないだろう。
参議院選挙のときは、小泉の政策を継承した安倍首相の存在と、大きな政府指向の元与党議員である国民新党グループの民主党との共闘ということで、対立軸がまだ何となく見えた。
しかし、福田―麻生という次の政権は必ずしも小泉の政策を継承していない。さらに、問題は、景気対策や地方への分配を求める大きな政府指向と小泉改革を進めようという小さな政府指向の勢力がいずれも麻生を批判しているということのややこしさがある。

このままでは、なしくずしてきな、わけのわからない総選挙となり、その上で民主党が勝利するのだろうが、そのとき、民主党もまた政策が明確になっていないため、迷走する危険性を抱えたものとなっていくだろう。

もはや、麻生は首相になるという目的を果たしてしまったため、政策がないということが露呈してしまった。この麻生の失敗は、もはや取り返しがつかないだろう。
あとは、麻生がいつ辞任するのか、である。もはや自民党は、新しい総裁で総選挙を闘うということも、視野に入れなくてはならないはずだ。

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最近、オバマにあやかって、グリーン・ニューディール政策の実現が、霞ヶ関や永田町でとびかっている。
だが、グリーン・ニューディール政策は、日本においては有効なのだろうか。
おそらく、そうではないだろう。

オバマの政策は、再生可能エネルギーの大幅な普及・開発とそれによる500万人の新規雇用というところにある。そのための投資が、アメリカ経済を回復させていく、というシナリオだ。

日本もまた、再生可能エネルギーの開発をすすめていく、というのが霞ヶ関や永田町の考えだ。
しかし、日本で同じことをしようとしても、霞ヶ関や永田町の住人には、新たな「バラマキ」以上のものにはならないだろう。補助金をどれだけ積むのか、といったレベルでしかない。

さらに、今の日本で単純な再生可能エネルギー開発が雇用をもららすのかどうか。そこまで徹底した開発は、とりわけ再生可能エネルギー導入に後ろ向きな電力会社にとってありがたくはない。決して大きな規模にはならないだろうし、それでは雇用もたかがしてれいる。
前提となる、固定価格買取制度の導入は抵抗が大きいだろう。
また、オバマの場合は、高機能な送電線の整備もあわせてうちだしている。だが、政府が民間事業の送電線をどうにかできるものなのかどうか。そして、この前提がなければ、送電系統の問題から、大幅な導入は難しい。
さらに、日本で再生可能エネルギーを開発すると、かなりのコストがかかる。そうであえば、CDMのような形で途上国で開発した方が、どれほど効果的かと思う。

むしろ、今の日本に必要なのは、高齢者福祉の充実だろう。単に介護労働を手厚くするというだけではない。
高齢者が住みやすいまちづくりを公共事業として行なっていくことが可能だ。ここに、省エネとなるシステムを入れていけば、再生可能エネルギー以上に雇用を生み出すことができないだろうか。
高齢者が安心して暮らしていける社会の構築を通じて、今度は高齢者の金融資産を活用することにもつながっていくかもしれない。
ばらまき、というのであれば、薄く広くではなく、高齢者の生活を保障する年金制度と生活保護の充実が求められる。

シルバー・ニューディールもまた、国の財政出動を必要とする。国の借金が増えることになる。
だが、このことが、円安をもたらす。このことは重要だ。
インフレはお金の価値が下がることであり、円安はある意味ではインフレとなる。だが、このことによって、借金を相対的に軽くすることができる。
また、円安は輸出産業に+の効果をもたらす。物価が上昇するが、国産の農産物が相対的に輸入したものより安くはなる。
安心できる福祉社会のビジョンさえ描ければ、消費税を上げるということには抵抗ないだろう。そして、消費税率の向上もまた、物価を押し上げ、インフレへの圧力ともなる。
もちろん、増税はいやだろうが、生活保護の充実などの政策が、これを緩和するはずだ。

こうした政策を、強い意志を持って実行する政権ができればいい、そう思っている。