立岩真也

 今、ユリイカの去年の9月号を読んでいる。特集「社会の貧困、貧困の社会」というわけなのだ。
 立岩の論文は、この特集とは関係なく、連載なのだけれど、なんだか文章のスタイルが、自分の文章みたいで、なんというか、そんな気がしてしまって。
 ちょっと複雑な気持ちですね。

 この特集で市野川容孝が飢餓という殺害について書いている。具体的には、第一次世界大戦から第二次世界大戦において、ドイツで起きたこと。そこでは、精神病患者に対して、食糧の不足を理由に餓死させてきた。殺すのではなく、死ぬまで放っておくという。
 けれどもそれは遠い話などではなく、生活保護の支給が厳しくなる日本で、現実として餓死者がいる、ということにつながっている。それどころではない。北朝鮮で食糧が不足しても、拉致を理由とした制裁によって食糧援助をしないという判断を、日本は行っていた。そこで餓死するのは、当然だが、権力者ではない。

 ということで、思い出したのが、宮下あきら。「嗚呼!毘沙門高校」の主人公の母親は、「砂糖がなめたい」と言って死んだという。国から忘れ去られた村に住んでいた。そして、そんな毘沙門高校のある村に対して、「国民ってな、税金を払ってこそ国民とよべるんじゃねえのか」と言ったのが、仲宗根首相であった。

 その宮下あきらの新刊「暁!男塾」の20巻と「天下無双」の7巻を買って、帰りの電車の中で読んでいたのだけれど、「天下無双」はますますすごいことになっている。時代は第二次世界大戦。若き江田島平八マッカーサーを前にロボットと戦うというおばかな展開になっている。その後、ミッドウェー海戦を経て、日本の敗戦がすでに示唆されるわけだが、アナーキー江田島にとって、そんなことはどうでもいいという具合だ。ただ、時代を受け入れようとした上で、なおそれを少しでも変えたいという。
 そして、7巻は原爆をめぐって、ヒトラーと話をつけにいくというところで終わっている。

 「暁!男塾」では、宮下の父親が亡くなったということが記されている。父親の職業は刑事だった。江田島のモデルだったとは言わないが、ということだ。刑事といえな、宮下には「ボギー・ザ・グレート」という作品もあった。主人公はアナーキーな刑事だった。

 アナーキーでことがすめばいいのだけれど、グローバリズムの中ではそうはいかない。ということが、同じ特集の中で、立岩による稲葉雅紀へのインタビューの中で語られている。アフリカの貧困と向き合うというのはどういうことか。
 先進国が引いた国境線の中で国が作られた世界。南アフリカであっても、GDPこそ高いものの、貧困の中で暮らす人も圧倒的に多い。そうしたとき、処方箋を描くのは極めて難しい。

 アナーキーであることの限界というのは、たまたま同じ日に刊行された徳弘正也の「近未来不死伝説 バンパイア」の5巻で示されている。「狂四郎2030」でも同じだったのだが、主人公は結局は政府=権力を独占する主体に勝てない。ゲリラとして生き残るしかない。

 徳弘が示すことはそれでいいのだけれども、それでもなお、現実に生きている身としては、それではやはり困ってしまう。

 つい先日、バナナラマについての原稿を書いたばかりなのだけれども、そこで取り上げているのは、セカンドアルバムに収録された「Rough Justice」という曲。80年代のイギリス政府がどれほど若者に残酷だったのか。
 当時の日本の首相は中曽根だった。
 そして現在、イギリスはサッチャリズムから変化したはずなのに、日本はなお、新自由主義が跋扈している。格差が広がり、大阪のあいりん地区の状況は低開発国並だという。偽装請負二重派遣の問題が顕在化したけれど、それを規制するだけでは、仕事を失う人間が出るという痛みを伴うことになる。

 今日、国連大学でG8ダイアローグ「気候変動と世界貿易:味方か敵か?」というイベントがあった。南アフリカやブラジルやマレーシアの大使館から参加している人がいて、ささやかに国際的なイベントで、UNDPシニアアドバイザーのデビット・ランナルス氏が講演。
 結論を言えば、気候変動は貿易にも関係するし、カーボンの多い商品やサービスを貿易で差別化することは話としてはできるのだけれども、それがすんなりできるというわけではなく、どう定義すればいいのか、大変だ、というもの。
 そしてこの問題がやっかいなのは、世界政府というものがないため、世界で対策に合意することに時間がかかるというもの。
 そう、ことはやっかいなのだ。稲葉が指摘するように、アフリカで人材開発をしても、開発された人材は先進国に行ってしまう。それでは何も解決されない。そういうこととよく似ている気がする。

 というわけで、世界はあいかわらず、解決不可能そうな問題にあふれているのだけれども、理想だけは持とうというのが、思想というものではないだろうか。

 まだまだ書きたいことはあるのだけれども、とりあえずこのへんで。