人生の奇跡

tenshinokuma2010-11-08

 先日、J・G・バラードの「人生の奇跡」(東京創元社)を読み終えた。なんだか、しみじみした。
 「太陽の帝国」や「女たちのやさしさ」といった自伝的小説ではなく、あくまで自伝。決して厚いとはいえない分量で、平易に、バラードという作家が誕生し、成長してきた裏舞台が描かれている。
 一つは上海であり、もう一つは戦後の妻、子どもたち、そして現在のパートナーとの出会い。作品については、ほとんど触れていない。
 上海のことは、「太陽の帝国」の舞台裏という感じがして、興味深いかもしれない。でも、ぼくとしては、戦後のことがすごく感じるところがあった。人生の奇跡というのは、とりわけ妻との出会い。でも、その妻は若くして喪われてしまう。そのあと、3人の子どもを育てるシングルファザーのバラードなのだが、しっかり家事をするとか、そういうわけではなく、子どもたちを学校に送り出すと、ウイスキーを飲みながら執筆しているという。そういう生活。それでも子どもたちは立派に育っているのだから、いいんだろうな。
 物足りないほど平易な自伝のように感じられるけれども、書くきっかけとなったのは、進行したガンが発見されたこと。まさに、ターミナルに向かうという場面で書かれた本だということだ。その場所から、バラードは自分の人生をそんなふうに感じていたのか、と思うと、いろいろと思うことはある。
 バラードの小説を読んだことがない人には、意味がない本かもしれないけど、ターミナルに向かうバラードの内宇宙と思って読んでいくと、何かしら感じるところがある本だな。
 ということで、今は、「涼宮ハルヒの暴走」を読んでいるのでした。