こちら葛飾区水元公園前通信744

 最近、何が楽しみって、いつ麻生の辞任会見があるのかっていう、そのあたりです。でも、自分から辞めるって言い出すのかなぁ。

 別に麻生が辞任すべきだと思っていないし、そんなことより、どんな形で政界再編が起きるのかの方が重要ではあるのだけれども、国会議員ってみんな腰の座っていない人たちばかりだし、そうなると、自然崩壊でしょうか。

 麻生について言っておくと、今のリーダーシップが発揮できていない、迷走している状況というのは、麻生よりも自民党の議員そのものに問題があると思う。というのも、麻生が総裁になったときに、支持されたのは麻生の政策だったはずだ。それは、小泉路線をある程度否定する、むしろ福田に近い、多少は大きな政府(=バラマキ)というものだったはずだ。そして、そうした政策は、基本的には(基本がはずれるから問題なのだが、後述)、急激な経済危機下においては、必要な政策だ。
 したがって、麻生個人というよりも、政府与党として、この政策を進めていくべきだったのだと思う。
 だが、そうさせなかったのは、バラマキが小泉路線をまっこうから否定する政策であり、今の衆議院議員が小泉の下で当選したということから、構造改革を進めなくてはいけないという呪縛にとらわれているということだ。そして、麻生を支持したにもかかわらず、その政策の実行の足を引っ張っていくという、ねじれが起きてしまい、麻生は何もできない、ということになる。
 こうした状況では、普通に考えれば、辞任をするだろう。結局のところ、選挙の顔という役割しか与えられていないのだから、それ以上期待されていないのだから、だとしたら、続ける必要はないはず。

 とはいえ、問題はもっと根深い。そもそも、景気回復のために財政出動させるというとき、一つは効果的なバラマキの政策を立案する能力がないということ。日本の国会議員は、抱える政策スタッフがあまりにも少なく、しかも自民党という巨大な政党の中にすら、そうした人的資源が少ない。小泉が自身の政策の推進に成功したのは、竹中というシンクタンクを抱えたからだというのが、ぼくの考えなのだけれど、そうしたものを、安倍も福田も麻生も持っていない。したがって、あまり効果的ではない、むしろ選挙対策でしかない政策しか打ち出せないということになる。

 では、それが民主党にあるのか、というと、それも心もとないのだけれども。

 でも、アメリカのオバマ次期大統領が刺激になっていると思うし、その点は民主党が敏感に感じていることだと思う。それはこういうことだ。

 オバマがこれからしようとしていることは、アメリカの財政赤字を拡大させるということだ。けれども、現在の経済状況を乗り切るためには、支出は避けられないと考えている。財源のことは考えていない。わけではないと思うけれども、埋蔵金増税ということではなく、国債発行だろうからだ。
 目玉の一つが、グリーン・ニューディール政策というものだ。再生可能エネルギーや省エネに投資し、雇用を拡大していく。ビッグ3の救済にも着目しているのだけれども、おそらく救済の交換条件として、会社そのものを変化させていくことを求めるだろう。小型車、クリーンカーにシフトさせていくという。こうした自動車の生産は、短期的には利益は少ないだろうが、そうでもしないとアメリカの自動車産業は生き残れない。重要なのは、雇用の確保なのだから。
 こうした状況は、日本に対して2つの圧力を生む。一つは、ビッグ3がクリーンカー市場で日本の自動車メーカーをおびやかす存在になるかもしれないということや、再生可能エネルギー市場で日本の製造業が立ち遅れることなどだ。そしてもう一つは、アメリカの財政赤字がさらなるドル安をもたらすということだ。つまり、円高がさらに進んでしまうということである。

 ということは、日本も円安に誘導する政策が必要だし、そのためにはせっせとお札を印刷すればいいということになる。そして、短期的に財源ができれば、バラマキが可能だ。そしてそのバラマキこそ、持続可能な経済の基盤をつくるところにあてられるべきなのだ。

 麻生は増税を口にしている。これは正しいと思う。3年後というのは、別にきっちりと、ではなくていい。景気が回復するということと、明確な社会保障政策が打ち出されることが条件となるし、そこにコミットすべきなのだ。

 オバマ政権もまた、いずれは増税が必要になるだろう。そのとき、どのような増税策を打ち出すのか、見ておく必要がある。これまでの共和党政治は高額所得者に減税をもたらし、所得格差の拡大を推進してしまった。そのことは、低所得者に何の恩恵ももたらさなかった。では、元に戻すのか。
 ただ、一つだけ言えることは、オバマ政権の方針として、低所得者の救済と格差の解消が常に底流にあるということだ。
 実は、オバマのエネルギー政策で最後に書かれていることが、そのことだ。今度、原油価格の再上昇にせよ再生可能エネルギー導入にせよ、エネルギー価格は上がっていく。しかし、低所得者に対しては省エネ・断熱住宅へのリフォームを支援することで、エネルギー価格の上昇を緩和しようということだ。
 こうした政策を、エネルギー以外の分野にも広げていけばいい。

 さて、では日本もまた、グリーン・ニューディール政策をとるべきなのだろうか。ぼくはそうは思わない。日本に必要なのは、むしろシルバー・ニューディール政策なのだから。

 今、もっとも話題になっているのは、タバコ税の増税が見送られたこと。その背景には、毎年のように福祉予算2200億円を抑制していくという、小泉政権の方針がある。この堅持が難しくなっているが、財源が問題だからだ。そこで、タバコ税ということになった。これが見送られてしまったわけだ。
 しかし、例えば介護労働者の年収というのは、結婚できないくらい、あるいは親と同居することでようやく生活が成り立つといったレベルだという。この分野にあまりにもお金が支払われていないということだ。
 もちろん、医療崩壊ということも言われている。病院の経営が成り立たないということだ。医者がもうかるというのは、開業医の話であって、勤務医は儲かる以前に過労死しそうだということだ。

 では、こういった分野に直接の支援を与えればいいのだろうか。そうではないだろう。他の分野への波及効果が少ないからだ。
 介護にしても医療にしても、そもそも「まちづくり」から見直すべきなのだ。
 実は、イオンのショッピングセンターが地方で経営に行き詰まっている。今後もそうなっていくだろう。たぶん、自動車文明に支えられた郊外型のショッピングセンターは、高齢化社会に対応できない。むしろ、高齢者が歩いて買物にいけるまちづくり、つまり高齢者が生活しやすいまちづくりである。自動車ではなく、公共交通機関にたよったまちであり、コンパクトなまち、病院と高齢者専門賃貸住宅があり、そのほかの老人施設がある。あるいはその他の施設、図書館や学校なども近い、そういうまちだと思う。そうしたまちを、省エネ型につくりかえていくことも必要だ。こうした事業であれば、道路をムダにつくらなくても、地元の建設業者にお金が落ちるだろうし、ムダな箱物にならずにすむ。
 こうしたハードと、福祉労働者の所得の拡大がセットとなって、暮らしやすい地方都市を環境型にしていくということが、シルバー・ニューディールだと思っている。
 財源は、ハードに対しては道路財源があるし、ソフトに対しては、結局は増税が必要なのかもしれないけれども、景気が回復すれば問題ない。

 円安に誘導していくということは、もう一つ意味がある。そのことによって、非正規雇用を減らす政策とセットにできるからだ。
 徹底した、非正規雇用対策、たとえば製造業への禁止や最低賃金、派遣労働の制度的な見直しなどを行なっていけば、人件費を抑制してきた製造業にとってダメージは大きいだろう。でも、そもそも、不等に人件費を抑制してきたのだから、そんなものを支持することはない。ただ、円安という状況が、こうした人件費が相対的に海外より安くなっていくことは、重要なことだと思う。

 というのが、実は、本来、麻生がとるべき政策だったはずだし、それを実現するだけの政策スタッフがいれば良かったのに、ということだ。

 そして、実はこうした考えが、現在行っている、連続政治家インタビューの根底にある。

 赤坂真理の「太陽の涙」(岩波書店)を読んだ。インドネシアの作家、マングンウィジャヤのようなはじまりで、それが未来につながっていく、これまでの赤坂とはまったく異なる作品。いろいろと書きたいことがあるけど、別の機会に。