こちら葛飾区水元公園前通信716

 しみじみと聞けるCD、ということで、Mavis Staplesの「We'll Never Turn Back」です。プロデュースはRy Cooder。
 メイヴィスは超ベテラン、67歳になるゴスペルシンガー。20年前、Princeのプロデュースによる「Time waits for noone」はものすごく好きな傑作で、JillよりもTajaよりも、もちろんDaleやMyteなんかよりもずっといい。あえて言えば、Siela.Eと並べてもいいと思う、そういうものだった。
 そして、いくつかの作品を経て、今回である。
 派手なところはないけれど、「voices」のようなあまりにもゴスペルしすぎた熱唱というか、そういうものでもなく、社会派というあたりをとらえながらの、じわーっという感じの、シンプルなバックによる作品。
 現在において、祈りを捧げる音楽っていうのは、こういうものなのかもしれない。若い男女が手をとって走り去っていくモノクロの写真、そうやって歴史がつくられてきた。でも、それは次の世代のものであって、戻るわけにはいかない。私もあなたも現在にいる、そこで新たな祈りを捧げる。
 しみじみです。

 このところ、仕事関係の本ばかり読んでいたので、たまには小説を、ということで、マイクル・ムアコックの「軍犬と世界の痛み」(早川書房)。永遠の戦士フォン・ベックの第1巻で、かつて集英社から「堕ちた天使」というタイトルで出ていたもの。舞台は17世紀、30年戦争時のドイツ、フォン・ベック隊長はルシファーのいる森に迷い込み、そこで聖杯の探求を命じられる。
 現実の歴史を舞台にした作品で、ヒロイックファンタジーという雰囲気ではないけれど、多少は剣と魔法。かなり書き飛ばしている雰囲気があって、小説として素直に評価していいのかどうか、迷うところだけれども、かえってムアコックの世界観がストレートに出ているとも思う。天国や地獄って、どういうところなのか、とか。
 聖杯には世界の痛みを癒すはたらきがあるということなのだけれど、それもまたどういうことなのか、これもムアコックらしいなあって思う。
 解説では、この作品あたりをターニングポイントとして、歴史物っていうことになっているけれど、その根底にはジェリー・コーネリアスを主人公とした連作がある。コーネリアスはタイムマシンで歴史の重要な場面に登場する。それを言えば、同じタイムマシンを使った主人公で、「この人を見よ」のライアンはキリストの時代に行く一方で、「廃墟で朝食を」ではさらにいろいろな時代の悲惨な場面を訪れている。その場面こそ、神の闘いの場面でもある、というのかもしれない。それは、現実に神が存在するということではなく、運命そのものというのが、そこで曲がっている、そういうものなんだと思う。だからこそ、神もまた運命に対して無力だったりする。それは、ルシファーの無力さにも通じていることだ。
 でも、そういう中で現実にコミットしようというのは、やっぱりニューウェーブSFになってしまうのだけれども、当時からずっと引き摺ってきた政治へのコミットということになるんだと思う。

 政治といえば、福田と麻生。どっちもどっちかもしれないけれども、福田のほうが手強いかもしれない。