こちら葛飾区水元公園前通信701

 クリストファー・プリーストの「双生児」(早川書房)をしみじみと読んでしまった。本当に、地味な展開をしているようで、きちんと仕掛けがしてある、実はSFだったという、そういうものだったりします。
 あえて言えば、かつての「ドリームマシン」が30年ぐらいたって、成熟したっていうところだろうか。
 話はというと、ジャックとジョーの双生児が、別々の歴史に入っていくというもの。ノンフィクション作家がこの二人の記述をつなげている(ネタバレ注意)。
 まず、ジャックのノートがある。そこでは、双子はベルリンオリンピックのボートのイギリス代表として参加することが示される。そこで、ジョーは当時のドイツがいかにひどいことをしていたのかに気付いており、ドイツ人の恋人をイギリスに連れて帰るために、競技終了後に帰る提案をする。ジャックはしぶしぶ受け入れる。後にジョーは良心的兵役拒否者として赤十字で働き、ジャックは空軍で爆撃機パイロットとなる。そこで、ジャックはチャーチルの命令で、捕虜となったヘスを尋問する。まあそんなこんなで、でも大切なのは、ジョーと結婚したドイツ人女性を面倒見てあげたりすることなんだけれども。というのも、ジョーはロンドンに行ったきり帰ってこないから、かわりに、なんだけれども。ジョーはそのロンドンで死んでしまう。
 でも、別のノートにより、ジャックは敵機に撃墜されて死んでいることが示される。じゃあ本当のことはどうなの?というところで、今度はジョーの記述。ここでは逆の歴史が語られる。のみならず、ジョーは負傷によって、現実と幻想の区別がつかなくなる。そこで、何が現実なのかわからなくなってくる「ドリームマシン」のような展開になるというわけだ。背景の歴史も大胆に改変されているのだけれども。
 じゃあ、結局のところ何なの?ということは、プリーストは放り出してしまう。ラストになって、導入部の意味がわかるのだけれども、それって何なの?っていう。
 むしろ、次々と改変される歴史の中で、有り得たラブストーリーが示される、ひょっとしたら世界は観測者原理なのかもしれない、そんなものなのではないかと思う。
 本当に、地味な話をしているようで、ズレがずっと気になるし、語りそのものも魅力的だし、そんなわけで、とても楽しんだ。とてもよくできている、成熟というものをみせつけてくれる作品だと思う。
 でも、あえて言えば「魔法」や「魔術師」の方が好きだけども。

 とまあ、そんなわけで、この土日は英文学学会でした。出版社のブースを手伝わなきゃいけなかったので。
 でも、学会で開催されているシンポジウムなどを楽しんだのだけれども。
 ぼくが見たのは、本橋哲也司会の「<産む性>を降りた女たち−魔女の系譜」というもので、講師に竹村和子小谷真理、コメンテーターに北原みのりというメンバー。ぼくとしては、中絶を語る竹村の話がすごく刺激されるものだった。
 ついでに、国書刊行会のブースで本を買ってしまった。だって2割引なんだもん。
 終わったあとは、さっさと帰ったのだけれど、やっぱり土日の間、子ども達と遊んであげていなかったので、少しでも、ということ。夕方近くなってしまったけれど、水元公園でザリガニを釣ったのであった。娘はけっこうザリガニ釣りがうまくなった。