こちら葛飾区水元公園前通信690

 清水玲子の「秘密」の3巻(白泉社)を読んだ。絵がきれいなまま、どろどろの絵を描く人である。
 「秘密」は、被害者の脳をとりだし、その記憶を読み取ることで犯人を探すという、そういうミステリーなのだけれど、その設定もさることながら、故人の持つ美しい記憶と残虐な犯行の記憶が重なり合って、何か無常というものを感じてしまう、そんな作品なのである。
 でも、今回は、ちょっと、話全体がもたっとした感じで、はまれなかった。というか、1巻、2巻に比べて、ということなのだけれども。

 ブライアン・スティブルフォードの「グレンジャーの冒険」シリーズの最終巻「スワン・ソング」(サンリオSF文庫)を読む。けっこう、スティブルフォードらしい並行宇宙というものを描いていて、それはそれでスケール感があっていい。
 解説で、米村秀雄がシリーズの欠点を挙げているのだけれど、いちいちその通りなので、笑ってしまう。たしかに、かんむり白鳥号は思ったほど活躍しないし、人物描写も足りない。どの巻も200ページを超えるくらいの長さしかないのだけれど、いまどきの普通のSF作家であれば、500ページは書くだろうというものだ。人物を掘り下げたりしていけば、少なくともそのぐらいにはなる。でも、スティブルフォードはそうしないのは、単に小説を書くのが下手だからなのか。まあ、興味はというと、生物学を専攻したというキャリアが示すように、まったく別の生物の可能性ということになるし、並行宇宙すらそのネタになっている。その部分を楽しめれば、まあ、かえってコンパクトな作品ということでいいのかもしれない。ぼくは無駄に厚い小説は嫌いなので、まあ、そういうことになる。
 それにしても、この作品は、アンガス・マッキーのイラストを抜きには語れないよな。

 伊藤比呂美の「日本の霊異な話」(朝日文庫)は、おすすめ。おもしろかった。「日本霊異記」をもとに書いた話なのだけれど、人間はもうほとんどけだものみたいに交わっているという、そんなことを主人公の僧侶の目から見ているし、本人もまた、そういった俗な人だったりする。どうしようもない、人間のバイタリティっていうのが、セックスという形になって表れる、そんな本。でも伊藤はこのまま、次の作品で、アレチノギクなど植物のバイタリティと移民のバイタリティを重ねた詩集を書くことになるのだけれども。

 先週、仕事で日光まで行ってきた。
 せっかくなので、途中で温泉に入ってきた。日光市営温泉「やしおの湯」である。裏滝のあたりにあって、バスも何本か出ている。
 市営だけあって、入浴料は500円と安い。まあ、それで露天風呂に入り、ビールも飲めるし、ボーっとできるので、いいのだけれども。
 それにしても、日光は東武鉄道で行くと、けっこう近いのではないか、と思うのであった。