ロックは死なない10

tenshinokuma2009-03-11

ロックは死なない10
ゴドレイ&クレームと成り行き(コンシークエンス)

 Consequenceという言葉には、環境ジャーナリストとして、ちょっとした思い入れがあります。この単語の意味は、「帰結」とか「成り行き」というものです。日本語にしてしまうと、何だか2つの意味があるようですが、そういうことではないと思います。「成り行き」というと、どうしてもネガティブな印象がありますが、ここで言うConsequenceというのは、ポジティブな成り行きであり、だからこそ帰結ということになるのです。
 この単語が、どんな場面で使われたのかというと、地球温暖化をめぐる国際会議でのことです。ご存知のように、COPとよばれる、気候変動枠組み条約締約国会議は、毎年開催されていますが、いつも議論は平行線をたどり、結論が出ないのではないかとやきもきさせられます。そうした議論の結果として、Consequenceがあるのです。みんなが議論をし、結局のところ、どこに落ち着いたのかということです。

 1977年に『Consequences』というタイトルの3枚組のアルバムを発表したのは、Kevin Godley / Lol Cremeという2人組でした。後にGodley & Cremeというグループ名を名乗る2人組です。Godley & Cremeというグループ名は次のアルバム『L』から使っているのです。
 さて、このアルバムは、最も変なロックのアルバムの1つだと思います。水が蛇口から漏れる音がいつのまにか曲になっていったり、ある面はただひたすらしゃべっているだけだったり、といった、およそまともな音楽であることを拒否したものになっています。なぜそうなったのでしょうか。それこそが、Consequenceなのですが。

 KevinとLolは、元々はGraham Gouldman、Eric Stewartの2人とともに、10ccというバンドで活動していました。何ともいえない奇妙な味わいの楽曲を演奏する、通好みのバンドでした。奇妙な音というのは、Lolが演奏するギターにとりつけられた、ギズモというアタッチメントです。これをつけて弦をこすり、いろいろと変な音を出していた、というわけです。まあ、LolとKevinの変なセンスとGrahamとEricのポップな感覚が組み合わせられることで、10ccというバンドが成り立っていたと思いますし、何といっても「I’m Not In Love」という曲はやはり歴史に残る名曲だと思うのです。

 ですが、変な2人とポップな2人の対立が激しくなってきて、結局、LolとKevinが脱退してしまいます。残った2人が10ccを継ぐのですが、このとき、よくまあバンド名を5ccにしなかったものだと思います。まあ、それを言い始めてしまうと、後に6人編成になったときは、15ccにしなきゃいけないわけですが。
 そうそう、その10ccというバンド名の由来は、男性が一度に射精する精液の量が2.5?だから、4倍して10ccにしたという話があります。本当なのかどうかは知りませんが。

 そんなわけで、2人組になった10ccの方はというと、本当にポップなグループとしてすっきりし、『Deceptive Bends』はけっこう大ヒットします。それはそれで良かったと思います。
 問題は、脱退した2人でした。

 LolとKevinは自分たちが開発したギズモを使った作品に集中して取り組みます。アイデアはいくらでも出てくるし、とにかくレコーディングしていったら、何だかわけのわからない3枚組になってしまいました。成り行きでできてしまった、そういうタイトルがつけられました。それが『Consequences』なのです。聴いていると頭がはにわになりそうになります。でも、ギズモというアタッチメントでこんなことができる、ということがたっぷりと聴けます。
 当時、2人は市販を開始したギズモのプロモーションで来日しています。このとき、「シンセサイザーやメロトロンなどがあるのに、あえてギズモを使うのはなぜか」という記者の質問に、「それはギズモは安いからだ」と答えています。そりゃ、そうですね。
 成り行きでできてしまったもの、ということには、ここではネガティブな意味はありません。むしろ、ここまでできたということです。この2人がポップな音楽をつくれないわけではありません。『L』に続いてリリースされた『Freeze Frame』はこのデュオの最高傑作だと思います。それゆえかもしれませんが、彼らのホームページはこのアルバムのジャケットのイラストが使われています。

 とはいえ、彼らのセンスは音楽に留まるものではありませんでした。むしろ、プロモーションビデオの監督として成功していったと思います。中でもYesの「Leave It」のビデオは、とんでもなく笑えるものです。上下逆さの9012Yesの5人が、山下達郎が感心してしまうようなコーラス曲を歌うのですが、その間、頭がくるくる回ったりとか、身体が振り子のようにゆれたりとか、まあ、変なことになります。しかも、実は10いくつものバージョンがあって、MTVで放映される度に少しずつ違っているので、間違い探しができる、とか。
 もちろん、彼ら自身のビデオも作成していて、「Cry」はなかなか話題になりました。ぼくも12インチシングルを買ったのですが、でもそれじゃビデオは見られないんですけどね。

 コンビ解消後、LolTrevor Hornとともに活動し、1999年にはArt Of Noiseに正式参加します。一方、Kevinはプロモビデオの監督を続けているとか。というのが、現時点でのConsequenceです。

 現在、世界的な不況に見舞われており、とりわけ日本では政治が機能していないおかげで、先が見えない状況になっています。でも、そうであっても、時間は過ぎていきます。無能な政府を持ってしまった原因は、そうした政治を支持してきたぼくたち自身にもあると思っています。そうした中、景気はどうなるのでしょうか。帰結はというと、よくわかりません。でも、必ず帰結はあります。それはそれで、きちんとポジティブに受けとめて、そこから先に行ければいいんじゃないか、そんな希望を持っています。景気回復のために、ぼくたちができることなんて、たいしてありません。そうであってもなお、多少なりとも最悪のところには行かなくてすむような成り行きであれば、それはそれで悪くないとも思うのです。
 そんなことを思いながら、最近、『Consequences』を聴き返しているのです。