こちら葛飾区水元公園前通信666

 北田暁大の「嗤う日本の「ナショナリズム」」(NHKブックス)では、連合赤軍事件から話が始まる。それは、共産主義革命を目指して自己否定を極限まで進めていこうとした結果だったという。あさま山荘の中で否定されてきたのは、消費社会による自己実現であったけれども、この事件を境にして、むしろそちらの方の流れにシフトしていく。そこで、70年代の糸井重里をはじめとするコピーライターの時代、80年代を代表するのは田中康夫、ポスト80年代として2ちゃんねるがとりあげられる。
 それは何かといえば、内面がゾンビと化したまま肥大化していったということになる。共産主義の追求が内面をゾンビ化させ、とって変わった消費社会がそれを肥大させる。ゾンビになったまま、空虚な内面が求めたものは「繋がり」であり、そこで2ちゃんねるが拡大する。おおよそそんなところだろうか。こうしたコンテクストの中でシニカルな「ナショナリズム」が台頭する。それに対する処方箋は、なお絶望せずに思想を語りつづけること、というのが北田の結論。
 たぶん、そうなんだと思う。安倍内閣がなお、高い支持率だという異常さを考えると、そう思う。そこには思想などなく、「若いから」ぐらいの理由でしかない。何かを期待しているわけではない。というか、まともに考えたら、期待できるものなど何もない。実際に、世論調査をしても、支持率が高いのに何も期待していないというような傾向だったような気がする。こうしたデータが出てしまうことそのものが、異常なのだと思う。だとしたら、それこそ思想を語りつづけ、少しでも届くようにしていくしかないではないか。
 空虚な内面をシニカルな「ナショナリズム」以外のもので埋めてあげる,余計なお世話などではなく、そのほうがずっとまし、ということで。太田光中沢新一の対談「憲法九条を世界遺産に」(集英社新書)がそこそこ売れ、アナーキーな世界が展開するいくつものマンガが読まれているという状況は、けっこう希望をもたらしてくれるものだとも思うし。とまあ、そんなことを思ったわけです。

 ビジネス書もいくつか読んだ。
 三品和広の「経営戦略を問いなおす」(ちくま新書)は、問いなおすというか何というか、そんなのは経営者だけが考えればいいよ、というような本。戦略なんて、描いたところで、その通りに行くわけじゃないし、むしろ不測の出来事にどう対応していくか、刻々と変わる状況にどのように進路をとるのか、まさに経営は人なり、なのだという。そういう経営者を育てるためには、そういうセクションとして、新規事業のひとつでもまかせておいたほうがいい、とも。優秀な部課長は優秀な経営者になるとは限らないわけだし、という。実際のところ、数字としてあげていけば、一貫した経営が一貫した利益をあげている、というような傾向にあるとか。なまじ、MBAで学ぶような戦略をふりまわしても、危険なだけっていう。まあ、現場主義の経営っていうことで、そうだよなって思うこともいろいろ。

 ケビン・D・ワンの「デビルパワーエンジェルパワー」(幻冬舎)は、デビルパワー(アメとムチ)だけではなく、その人の能力を認めてあげる、その人の良さを引き出す、そういうエンジェルパワーでスタッフをエンパワーメントし、会社を良くしなさい、というビジネスノベル。何となく、精神論みたいだけれど、でもまあ、ささやかな大切さとでもいうのかな。それはそうだと思う。

 同じビジネスノベルでイマイチだったのは、高橋朗の「幸せって何?」(NaNaブックス)。同じ著者の「黄金のおにぎり」はブランドの解説書として、けっこう良くできていたし、そもそもブランディングに関する勘違い、というかマーケティングで忘れがちなことを示してくれていたし、そういう意味でいい本だと思ったけれども。「幸せって何?」のメッセージはというと、「考えなきゃ幸せになれないよ」というシンプルなもの。考えないで生きているとだめなんだよ、という。それはそうだと思う。でも、そこまで言われたくないよなあ、とも思う。
 高橋は、商品=製品+コミュニケーション だって言うけれど、これはけっこう忘れられている。お酒にしたって、蔵元はいい酒をつくれば売れるはずって思っているけれど、コミュニケーションが不足していては売れない。そういうことをきちんと埋めていかなきゃいけない。そのことがきちんとわかっている高橋は、優れたブランド戦略家だと思うけれど、精神論に入ってしまうと、ちょっと難しいかもしれないな、とも思う。それもまた、大切なことではあるし、なかなか忘れがちなことではあるんだけれども、だからこそ、ブランド論以上に伝えるのが難しいのかもしれない。

 息子と一緒に、映画「ウルトラマンメビウス」を見た。ウルトラ兄弟ということで、すっかりおじさんになった黒部進森次浩司や団時郎なんかが出てくる。映画そのものの出来はまあともかくとして、このシリーズが40年という歴史を持っているというのは、それはそれで資産として大きいものがあるなあ、と思った。
 ウルトラマンが生誕40周年だとしたら、仮面ライダーは35周年、スーパー戦隊シリーズは第30作という。そういうことだそうで。なんか、それだけ言うと、すごいですね。