こちら葛飾区水元公園前通信655

 友情・努力・勝利からもっともかけはなれたマンガ、「Death Note」が終わった。今月、最終巻が出たのだけれど。とにかく、きちんとした終わり方をしてくれたので良かったと思う。少年ジャンプに限らず、週刊少年誌の連載マンガっていうのは、人気があるうちはだらだらと続き、人気がなくなると終わる、そういうものだから。全体としてまとまった作品になることって、めったにない。本当に「デスノート」は最初のころは面白かったので、だらだらと続かなきゃいいなあって思っていたけれど、そんなことにならなくて良かった。
 友情・努力・勝利からもっともかけはなれたって書いたけれども、そのことは否定されない。むしろ、最後に勝つのはやっぱり、友情と努力だったりするんだけれども、ことはそう単純ではない。
 死神のノートがあって、これに名前を書くと書かれた人は死んでしまうっていうアイデア。つっこみどころがたくさんあるのだけれども、そもそものシンプルなアイデアがわかりやすかった。そうして、自分の手を汚さない殺人が、いかにスマートであるのか。犯罪者を殺すことがいかに正当化されるのか。でも、そうではないという重さが伝わってくる。そんなメンタルなしくみそのものは少しもシンプルじゃないっていうのは、新鮮だったのかもしれない。テーマは、古典的で、悪人ならみんな死んでいいのか、それによって秩序ある世界ができれば人々は幸福なのか。そんなところだ。多分、ほとんどの人が、デスノートを手にしたい、それによって殺したい人がいる、そんなことを考えたことがあるはずだ。そうした心理の中に入りこみながら、その行為が決して美しいものではないというのを描いているのだから。
 巧みな推理戦というのも、すごく面白かった。主人公も無傷ではなく、大胆なトリックを使って、周囲を欺いていく。そこまでするかっていう。しかも、相手も主人公を追い詰めていくのだけれど、なかなかそうはいかない。どちらにも感情移入できるようなできないような、そんなところがある。
 正直なところ、最初に主人公の夜神月ことキラと対峙するLが死んでから、ちょっとだれた気がした。そこでもういいやっていう。もう悪の側に立つ主人公が勝つ物語だったんだって思って。次に出てきたメロとニアはLほどの魅力はなかった。でも、それもまた、意図されたことなのだろうか、というようなラストだったんで、やられたって思ったな。キラは追い詰められるほど暴走し、そして逃げ切れるのかどうかがポイントだったのだけれども。
 ということで、コミックスで全12巻、まだ読んでない人はどうぞ、ってネタばらししてて書くことじゃないですね。
 かつて、囲碁にはまっていた小学生が、最近は嫌いな奴の名前をノートに書いている、という話は、あまり聞かないですね。

 金原ひとみの「蛇にピアス」(集英社文庫)も読んだ。けれども、まあ、ピアスとか刺青とか痛そうだけれど、どうしてそんなことをするのか、ちょっと伝わらないところがある。っていうか、何なんだろうな。恋人を殺したのかもしれない男と一緒にいるというのも、自傷行為なのかな。じゃあ、どうしてそうするのか。刺青を入れたあと、食欲がなくなってビールだけで過ごし、痩せていくということ、解説を書いている村上龍によると、著者もなぜか説明できないのだろうな、ということなんだけれども、それはそれで、分析するべきものなのかもしれない。でも、わからなくても、感覚的に伝わればいいのだけれども。

 加門七海の「オワスレモノ」(光文社文庫)も読んだ。著者が話す実話の方が面白いっていうのは、正直、あるな。というのも、実話の場合、結局突き詰められることがなく、もやっとした怖い話になるから。どこかの建物ですごくヤバイ気を感じ、悪いことが次々に起きる。けれども、小説的結末には至らない。そのことが怖い。小説の場合、最後に見せなくてはいけない(とは限らないけれど)ことがあって、そこに持って行く過程で、どうしてもチープな仕掛けになってしまうっていう。
 そうした意味では、「203号室」がいちばん怖かったっていうのはある。本書の中では「夜行」がいちばん怖いかもしれない。タクシーに乗れなくなるかも。
 この短編集で一番面白いのは、実は「12月29日のアパート」だったりする。ホラーコメディなんだけれど、怖い話をしながら、笑いをとる、というか、そのあたりが、著者の本領が発揮されているのではないか、などと思ってしまった。加門は小さい頃から幽霊を見ているし、それに慣れていることもあって、笑うことができる。そんなことなんじゃないかな。
 あと、タイトル作は、けっこうグロテスクな話なんだけれど、こんな描写もできるんだって、ちょっと新鮮だった。毎日、中央線に乗っているので、ヤですね、こういう話。