こちら葛飾区水元公園前通信653

 このところ、月に3回くらい、長野県飯田市に行っていた。
 飯田には市立動物園があって、小さな動物園なのだけれど、入場無料だし、飯田に行く機会があったら、入ってみるといいと思う。ほんとうに、ちょっとした昼休み程度の時間でいいのだから。
 動物は、やはりアルビノのタヌキにはびっくりですね。真っ白いタヌキなんです。けっこう、かわいいです。アルビノのカラス(上野動物園)ほど違和感はないし。
 あと、イノシシが2匹いて、名前がイシシとノシシ。「かいけつゾロリ」ですね。
 なんか、すごくのんびりした動物園で、こういうところで気分転換できるっていうのは、それなりに贅沢なのではないか、と思ったりもします。

 飯田市立美術館・博物館というのもあって、これもこじんまりしたもの。決して展示スペースは広くない。正直なところ、美術館と博物館はコンセプトが違いすぎるので、一緒にするのはどうか、という気もするのだけれど、城郭の雰囲気を残した建物というのは、そう悪いものではない。

 この美術館・博物館の先に、三宜亭という温泉旅館がある。温泉は800円で入れるのだけれど、男性なら月曜日、女性なら、確か水曜日だったと思うのだけれど、半額チケットをくれる。
 ごくふつうの大浴場にサウナや露天風呂がついたものなのだけれど、露天風呂は眺めがすごくいいです。
 そもそも、飯田の中心街っていうのは、丘の上、かつてお城だったところにあるわけで、その丘のはじにある露天風呂からは、丘の下の住宅地や市街地が見えるというわけ。
 もっとも、飯田の中心街はけっこうさびれていて、というのも、地方都市の駅前はどこもシャッター商店街になっていて、幹線道路沿いに大型店が進出し、新たな中心になっている、というのはどこでもいっしょ。そういう意味でも、丘の上からの夜景は悪くないわけなんですけど。

 本屋大賞受賞の小川洋子の「博士の愛した数式」(新潮文庫)を今更ながら読みました。おもしろかったです。
 新しい記憶がなにも持てないという博士は、同時に数学的真実をいつも持ち歩いている。整数論が専門っていうのが、すごくわかりやすくって、素数完全数といった話題が出てくる。これがトポロジーの専門だったらどうだろう、などと考えてしまったりもするのだけれども。
 とまあ、博士の性格と数学的真実によって、主人公のは息子とともにゆるぎない世界に進むことができるという、そういう力強さがあるのではないか。そんな気がします。

 ウィル・セルフの「元気なぼくらの元気なおもちゃ」(河出書房新社)もおもしろかったですね。表題作って、酔っ払ってみんなで、幼児が乗る自動車のおもちゃで、坂道を下る競争をする話からきているんだけれど、このイメージがなかなかおばかなので、好きです。
 いや、けっこうおばかな設定の話があって、「虫の園」に出てくる虫たちは便利だなあって思うし、「愛情と共感」では内なる子供が肥大化ならぬ巨人化しているんだけれども、それはそれですごくセクシーな話だなあって、ぼくはすごく思った(訳者は不満みたいだけど)。ちょっと変わった小説を読みたいという人にはおすすめ。J・G・バラードも傑物というくらいのウィル・セルフですから。これが気に入ったら、中編集「コック&ブル」(白水社)もどうぞ。

 宮下あきらの「江田島平八伝」の5巻が出たので読んだ。ついに真珠湾攻撃で太平洋戦争に突入、主人公は毛沢東を中国から日本に連れて帰るという、あいかわらずメチャクチャな話です。しかもその毛沢東、中国拳法の達人という。戦艦大和の内部では原子爆弾を開発しているし、まあそんな調子。
 それにしても、宮下はこれだけ暴力的なマンガを書きながら、基本的に人間同士の争いは醜いものであり、戦争は愚行でしかないというスタンスを持っている。あたりまえといえばあたりまえなのかもしれないけれど、毛沢東がすごくかっこよく書かれていて、悪人は日本の権力者だというあたり、実はこの人、本質的に「サヨク」なのではないか、などと思うのですけれども、そういう考えは20年以上前からあって、宮下とその師匠にあたる本宮ひろ志の決定的な違いは、宮下の描く主人公が「労働者階級の英雄」だっていうことなんだけれども。本宮はやはり、主人公を勝ち組にしてしまう。そんな違いがあると思う。それゆえに、頭が痛くなるほどマッチョなマンガ(赤坂真理)なのに、ずうっと読んできたっていうわけ。