こちら葛飾区水元公園前通信732

 自分の著書、電力・ガス業界本は、とりあえず図版を全部そろえて初校を戻した。ヤマは越えたということでちょっとほっとしている。とはいえ、実は再校が明日にも届くことになっていて、今日の分も月曜日には出るというので、やっぱり追い立てられるということには変わりない。
 今日は担当編集者に、「とりあえず図書館推薦図書になったので、全国の図書館には配本されますよ」と聞かされた。というわけで、それはとてもありがたいことである。というか、まあ、その、なんというか。やっぱり、3月中の発行に向けて、すっかり乗せられているのであった。

 という一方で、他人の本「京都議定書10年」も初校を見終わって、来週には校正を戻すことになる。こちらも、自分で言うのも何だけれど、けっこうスリリングな対談・インタビューになっているので、完成するのが楽しみ。わりとライブ感を残した編集になっているし。

 この2冊、共通するのは、ぼく自身の環境・エネルギージャーナリストとしてのかなりまとまった仕事になっているということ。
 ライターというと、自分の個性を押し殺して規範にそった文章を書くことが求められるのだけれども、その意味では、そこからあまりにも離れた本にはなっていると思う。どちらも。ライターをやっていくには、自分はエゴが強いとも思う。でも、そういうふうにしかできないのだからしょうがないとも思う。

 というわけで、仕事を終えたまま、現在、いつものように深夜のマクドにいる。

 「京都議定書10年」に関連して、宇沢弘文の「社会的共通資本」(岩波新書)を読み、また「自動車の社会的費用」(岩波新書)を現在読んでいる。
 宇沢の主張というのは一貫していて、例えば環境は社会的共通資本なのに誰もがフリーライダーとなって適切なコストを負担していない、ということだ。それは病院の整備がそうだし、人が安全に歩ける道路というものが自動車によって損なわれている、その社会的損失は大きいのではないか、ということでもある。
 「自動車」は74年に発行された本で、岩波新書の青版なのだけれど、今現在書かれたばかりのような本だ。本当に自動車はさまざまな危険を伴っているし、実際にぼくのうちの前の道路なんて危なくてしょうがない。ほんとうにうちの娘は交通事故にあっているくらいだし、隣も向かいもともに自動車が塀にぶつかっている。歩道橋は非人間的な施設だし、東海道新幹線と東名・名神高速道路ではどちらのほうが事故が多いか、考えるまでもない。
 しかし30年以上たっても、日本の社会は自動車の便益を選択している。公共交通機関はさらにずたずたになっているので、もはや自動車を使うしかない社会になっているのかもしれないのだけれども。
 とまあ、そういうわけで、自動車はともかく、地球温暖化問題もおなじコンテクストで語ることができる、というわけなのだ。
 ガソリン税と道路財源という話をしている場合じゃなく、公共交通を復活させて、高齢者にとって暮らしやすいまちづくりを行うっていうのは、やっぱりこれからの重要なテーマではないか、と思う。そのことが、CO2削減にもつながるし。

 ライターは個性を押し殺した文章を書いている、って書いたけど、その元ネタは、斎藤美奈子の「文章読本さん江」(ちくま文庫)だったりする。文章書きのプロっていうのは、プロフェッショナルのプロではなく、プロレタリアートのプロだっていうのは、すごくよくわかる。わかりすぎて、これ以上書く気も起きないのだけれども。

 そんなところから遠く離れたところにいるのが、ジョン・スラディックであり、「蒸気駆動の少年」(河出書房新社)はなかなか頭がおかしくなりそうな短編集なのであった。ネジを一本はずして、月がないということや、疑似科学の類をまじめに論証しようとする。だからどうしたって思う人はしょうがないのだけれど、やっぱ変な天才だなあって思う。スラディックは好きです。

 銀林みのるの「鉄塔武蔵野線」(ソフトバンク文庫)も読んでしまった。どうしてかっていうと、完全版ということにひかれたから。親本では枚数が減らされていた鉄塔の写真がすべて著者の思い通りに収録されているのだけれど、こういう仕事って、まず、編集者としてすごいなあって思ってしまう。編集者にとって、一番大事なことっていうのは、著者が思い描いている本にどれだけ近づけられるかっていうこと。ただし、これは内容だけじゃなく、どれだけ人に伝わるのかということも含めて。そうした仕事には敬意を払ってしまう。
 で、日本ファンタジー大賞受賞作なのだけれど、ちょっとつらいところもある。自転車で鉄塔を追っていくというのは、子供心にやってみたくなることだし、そういうのってすごくわかる。多分、テツが終点まで乗ってみたいっていうことと、本質的には変わらない。ただ、それが鉄道よりマイナーな鉄塔だっていうことなのだけれど。
 そして、写真があるからまだ、この冒険を一緒に楽しむことができるけれども、話そのものは、本当にそれだけだから、つらい。
 まあ、仕事上、鉄塔には縁がないわけじゃないんだけど。

 ということで、最近の楽しみは、「栞と紙魚子の怪奇事件簿」だったりします。日本テレビの土曜日深夜。諸星大二郎の原作から遠く離れているっていえば、そうかもしれないけれども、キャラクターとしては栞と紙魚子が逆転していて、その栞はボーイッシュな感じのまま、怪奇事件にどかどかとつっこんでいく。それがなかなか見ていて気持ちいい。紙魚子はどちらかというと巻き込まれる役なのだけれど、地味な感じでいて、そこにはまっていくっていうのが、見ていて楽しいっていうか、うまいなあっていうか。二人とも、すごく中性的な感じなんです。それでかえってやすらぐっていうのかなあ。
 脇役も井上順の団先生、奥さんは高橋恵子で当然ながら顔のアップ。きとらさんも登場し、あとはクトゥルーちゃんが出てくればいいのかな。あとネコか。

 そうそう、「神の雫」と「もやしもん」を読んだらワインが飲みたくなったって書いたよね。そうしたら、取材先でオーストラリアワイン2本をいただいてしまいました。なんだか、お酒の神様っているのではないか、などと思ってしまいます。まだ飲んでいないけど。

 というわけで、3月になってしまいました。